梨佳が書き溜めたTEMARICIOUS過去Blog Archiveです。
2019.06.13
家庭画報7月号が発売されました。
「祈りの宿る手毬歴」も早、7回目となりました。俳句の山西雅子先生の選ぶ俳句に毎回ドキッとします。
よく皆さまに質問していただくのですが、俳句と手まりの制作はどちらが先?ということ。
結論からいうと同時進行!
手毬暦のテーマは、俳句、手まり両方をよく考えて編集者さんが決めてくださっています。
テーマのなかで手毬のパターンや色味をイメージをつけます。俳句を待っていたらなかなか制作の時間が間に合わない場合がある。そうこうしていたら、俳句も選ばれて私の手元にやってきます。
そこでこの俳句なら手まりとリンクができそう!というのを選び、お伝えさせていただき、編集者が最終的にバランスをみて最終決定して俳句が決まっています。
でも毎回毎回同じではなく、勝手に自分たちで裏テーマを作って走り出して作っているのもあります。
面白いのが先に勝手に作り出している手まりが、怖いくらい俳句がそのテーマにぴったりだったことも何度もあり、山西先生とは以心伝心のようです。
家庭画報
祈りの宿る手毬暦 – 7月 矢羽根
緑蔭や 矢を獲ては 鳴る白き的
竹下しづの女
なんて爽やかな俳句なんでしょうか。
まず、映像が緑蔭で始まります。
暑さを避けて木蔭で休み、上を見上げた図でしょうか。
バルト三国で休んだ時の菩提樹の木を想像しました。
そして、白い的が主人公。
緑→白へ色が変わります。
白い的が矢を獲るという表現は自然のようで、自然にできないと思います。
白い的に吸い付くように矢が当たり心地よい音を立てている風景が目に浮かびます。
そこには暑さでイライラした感情など全くなく、涼しい緑の葉と涼しい風、矢のスピード感と白い爽やかな的。
この俳句にはドキッとします。
この俳句に負けないくらいの手毬をつくろうと、テマリシャスのとっておきの緑をふんだんに使いました。
草木染めの緑はなかなか難しいのです。
緑色の葉っぱを染めて、簡単に緑がでると昔は思っていたけれどもそれは大間違いでした。
緑は藍の青と玉ねぎや福木、ハルジオンなどの黄色をかけて作っています。
藍と黄色の素材たちの微妙な分量の違いで緑の深みが変わるのです。
とっても爽やかな黄緑も深い青緑もテマリシャスの中では本当に人気で染めても染めてもなくなってしまう色の一つです。
そして、矢羽根。
菊を作り少し線を追加して作る矢羽根とまるで織物のように作り上げる矢羽根の二つの手まりをつくりました。
まったく作り方は違います。
カメラマンさんがテマリシャスの手まりをよく理解してくれて、
私たちが作った手まりは「静と動」だと表現してくれました。
まさにそうだなあと思いこの二つの手まりがもっと好きになりました。
矢羽根は、単純なパターンですがとても綺麗。あのパターンの美しさは、世界共通だと思ったのが先日のラトビアの森の民芸市で伝統の作り方を研究している作家さんたちのブースの紐が矢羽根だったのでびっくりしました。
矢羽根は矢の上につける、鷲、鷹、鳶などの羽根のこと。弓矢は古い武器の一つで、男子のお祝い事に使われ、武器にも美しさを競っていたのでしょう。
「破魔矢(はまや)」というように、魔をはらう意、「的を射る」など言葉をかけて、縁起の良い文様です。
矢羽根を美しくデザイン化されたものが今日でも見ることができる着物の柄ですね。ファッションの世界に溶け込んだ文様です。
江戸時代に、結婚の際に矢絣の着物を持たせると出戻ってこない(射た矢が戻ってこないため)といわれるようになり、縁起柄とされ、明治、大正時代には矢絣の着物と海老茶色の袴を組み合わせが「海老茶式部」と呼ばれ女子学生の間で大流行したとのこと。
個人的には、矢羽根の美しさは、最初の武器に羽をつけていたところに心惹かれます。
矢がまっすぐに飛び、獲物を得る。命と密接に関わっていた時代にプラスアルファの美しさ、デザインをしていたところに人間の元来の美意識の高さを感じ取れるからです。
さて、長くなってしまいました。
家庭画報は7月号ですが、ただいま日本は梅雨盛り。
そんな梅雨でも、心が晴れる爽やかなテマリシャスの緑をお楽しみください。
また来月もお楽しみ〜。